「BLACK SWAN」
★★★★★★★☆☆☆7/10
ネタばれ注意!
「ブラック・スワンって、日本人が観ると怖いらしけど、アメリカ人が観ると笑える映画らしいよ。」と、言っていたのは職場のスタッフ。
”お笑い”ってほとんどが人の不幸話だったりする。
誰が言っていた忘れちゃったけど、「幸せの形よりも、不幸の形の方が遥かに多い」という言葉を思い出した。何が言いたいかって言うと、幸せだけのストーリーを作ろうとする人も、見ようとする人もあまりいないという事だ。シンデレラと王子様が結婚する場面から始まって、仲良く老後まで過ごして終わるという物語を見る人がどれだけいるだろうか?やはり、意地悪な三姉妹が出てシンデレラをいびる場面があった方が面白い。
不幸話は話の仕方に寄って、もしくは誰が話すかによって、同じ話でも悲しかったり、笑えたりするものだ。
そう考えるとホラーと笑いって結構紙一重だったりする。「スクリーム」というホラー映画がある。お面をかぶった謎の殺人鬼が次から次へと人を殺していく話なんだけど、なぜか怖いというよりも笑えてしまう場面が多い。ただ、人によってはまったく笑えなくて怖がって観ている人もいる。ホラーとコメディの間をうまいこと描いた映画である。もちろん好みはあるから、怖くもないし、笑えもしないという人もたくさんいるだろう。
さて、ブラック・スワンはどうだっただろう。
物語の序盤はいたって怖くも笑えもしない。ただ、蜘蛛が糸を張りはじめたような出だし。
主人公が白鳥から黒鳥へ変貌しようともがき苦しみ、現実と幻想の区別がつかなくなるあたりから段々と演出は過激になってくる。日本人が好みそうなホラー演出という印象を受けた。
ここでなんか出てくる・・・絶対出てくる・・・出てきて欲しくない・・・うわっ、出た!!
みたいな。
これは、アメリカ人だったら笑うかもしれないと思った。
ナタリーポートマンが自室で自慰にふける場面があるのだが、目を開けて横をふっと見ると部屋のソファに母親が座っているという場面がある。あれは演出を変えれば完全にコメディにもなるだろう。しかし、私が映画館で見ている時、観客はみな肩をぶるっとさせていた。
映画を見終わりエンドロールが流れる。映画館が明るくなると観客は静まり返っていた。一瞬の間をおいてからざわざわと、
「え・・・これ、すごくない?」
「怖かったけど、良かったよね。」
「すっごい面白かった!!」
ホラー風に演出はあくまで味付けに過ぎない。観客は恐怖で静まり返っていたわけではなく、ナタリーポートマンの演技に圧巻されていたのだ。ブラックスワンでのナタリーポートマンは、終始途切れる事もなく出ずっぱりだ。これは、役者としてはやりがいがあることだろうが、大変なプレッシャーでもあったはずだ。
無人島へ漂流した男を描いた「キャスト・アウェイ」という映画がある。物語の半分以上が1人演技になるという一歩間違えれば最高の安眠ムービーになる所だったが、主演のトム・ハンクスの素晴らしい役作りと演技によってこの作品は大ヒットを記録した。
ナタリーポートマンは役作りの為に撮影の一年前からトレーニングを始めて、毎日、3時間のバレエのレッスン、1時間ちょっとの水泳、2時間の筋肉トレーニングを続け、ものすごく苛酷なスーパーダイエットをして、ニナの孤独を体感するため友だちとの付き合いもシャットアウトし、ケイタイも消して、修道尼の生活を励行し、さらに撮影2カ月前には、その日程に3時間の振り付けを加えて、もう肉体的な限界に挑戦したと言っていた。
どこまで本当にやったの?と疑いたくなるくらい過酷な役作りだが、映画を見ればそれも納得できる。
映画を見た事を伝えるとみんな、怖かった?と尋ねる。
あのホラー演出を無しで、ナタリーポートマンの演技を見続ける事の方がある意味怖いのかもしれない・・・と思った。
コメント