「悪人」
★★★★★★★★☆☆8/10
ややこしい事は好まれない。
何事も白か黒かはっきりさせたい。お前は人を殺したから悪人。殺された被害者は善人。
もしも、言葉を「はい」、「いいえ」だけで済まそうとしたらどうなるだろう。
遅刻したら遅刻した奴が悪い。
仕事をミスしたらミスした奴が悪い。
世の中には正論だけでは埋め合わせできないことがたくさんある様な気がする。
電車が事故で動かなくなったから、会社に連絡をしてわざわざ違う交通機関を使って一生懸命会社に着いたのに怒られる。
「何で電車が止まるかもという事を前提に出勤できないんだ。もっと早い電車に乗ってきなさい。」
仕事のミスは先輩に指示された通りの事をやっただけだったのに。いいわけするな!と怒鳴られる。
その一つ一つが矛盾している。
事情も分かってくれず怒鳴る人もいれば、ちゃんと事情を察しながらも怒る人もいる。
「悪人」に出てきた、被害者の父親役がスパナであの大学生を殴っていたとしたら?
それは悪。
その場面を見ている人で少なからずは、「あんな糞野郎は殴られて当然」「殺されて当然。」と思わなかっただろうか?
映画で見せてくれた中間色(グレーゾーン)が無ければ確かに殺した妻夫木が悪人。
しかし、映画を見終わった後、悪いのは全部あいつだ!と思えた人がどれだけいただろう。確かに、最終的に殺してしまった犯人は彼である事は間違いがない。
白か黒かという小さな振り幅だけで物事を考えるのはとってもつまらなく、悲しい事だと思う。
「悪人」は全ての答えを提示することを避けて終わる。これは良い映画の条件の一つ。見ている人達に考える余白をしっかり残してくれる。
映画を見る前と見た後では、若干、私の中でのグレーゾーンが広くなった気がした。
それにしても久しぶりに引き込む力がある作品だった。製作陣が本気で映画を作ってる感じが伝わってきた。役者全員がこんなに素晴らしい演技ができるのはきっと、現場の雰囲気のおかげでもあるし、それぞれの役者がそれぞれの役者に感化された結果なんだろうな。最近こういう映画少なくなってきたな。
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